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既存の出版ビジネスへの挑戦? 佐々木大輔氏の私小説『僕らのネクロマンシー』の販売手法が斬新

April 23, 2018

 出版不況が続く昨今、多くの出版社がデジタルメディアへの移行を模索する中、あえて紙媒体にこだわり350部限定で出版された小説単行本『僕らのネクロマンシー』。著者は、LINE株式会社やスマートニュース株式会社で重役を担ってきたインターネット界の風雲児、佐々木大輔氏。

 本書は柳田國男が『遠野物語』で描いた岩手県遠野市を舞台にした予言的私小説。しかし、その斬新な物語と同じくらい話題となっているのが、既存の出版ビジネスモデルに対する実験ともいえる販売手法だ。

 まず価格については"時価"となっている。参考価格として¥13500+税が設定されているが、これは、既存の一般的な販売手法で値付けした場合にはこのくらいの金額を付けざるを得ない、ということ。

 しかし、第1回販売(2018年2月28日)では価格を¥6000+税に設定し、その後、販売を重ねることに値上がりし続け、第6回販売(2018年4月13日現在)では、¥8500+税となっている。

■ 本の希少価値や需要は価格に反映されてしかるべき

 こうした販売設定に対して、出版元であるNUMABOOKSはこう語る。

「一般的に、本は定価販売を原則としており、新刊である限り値引きはできません。しかしながら、古書に見られるように"本の希少価値や需要"は価格に反映されてしかるべきと考えました。発売後すぐ購入していただいた方々が話題にしてくださったからこそ、ベストセラーが生まれます。発売時が1番安価で、徐々に、話題とともに値上がりしていくことは、実は実情に沿っているのではないでしょうか」

 さらにそこには、本書と舞台を同じくし、内容にも影響を与えている『遠野物語』が巡った展開(初版は柳田國男が自費で350部を作成。当時のインフルエンサーに献本したことで話題になり、現在は各社文庫に採用されるベストセラーになった)へのオマージュも含まれているとか。

 そしてNUMABOOKSのWEBショップでの直販売のみとなっているが、実はこのことが流通上の制約を廃し、装丁の自由度も格段に上げている。本書は、表紙や背表紙にもタイトルがなく、3mmのアクリルを表紙に貼り付けた特別仕様。そして判型も『遠野物語』の初版に合わせるというこだわりも。

 もちろん、この大胆な装丁も既存の出版ビジネスへの挑戦であり、時価設定と直販売ならではの利益率の向上もあわせ、本書は全く新しいカタチの書籍販売の在り方を提案している。

 電子書籍の売り上げが紙媒体を上回りつつある時代だからこそ、革新的かつ温故知新的なスタンスで紙媒体の価値を高めるような佐々木氏の試みは、今後の出版社が進むべき、ひとつの方向性を示しているようだ。

■NUMABOOKS
http://numabooks.com/awizardoftono.html